青少年のネット安全・安心講座~みんなのネットモラル塾~

コラム

ネットでのやり取り

目の前にいない人

A先生とBさんが同じ部屋にいます。A先生はBさんのすぐ横に立っています。Bさんは椅子に座っていて、その前には、たくさんスイッチがついた台があります。別室にはCさんがいて、椅子に座っています。なにかケーブルがつながっています。この2つの部屋は、インターフォンがあって、音声のやりとりができます。

A先生「今からCさんにクイズを出します。」

Bさん・Cさん「はい」

A先生「もしこのクイズに不正解だったら、Cさんに電撃の罰を与えます。間違いが増えると、電撃がだんだん強くなります。」

Bさん・Cさん「えええ!」

A先生「Bさん、あなたの目の前にあるのが、この電撃のスイッチです。」

Bさん「私がやるんですか!」

A先生「そうです。」

問題を出すA先生、しかしCさんは不正解!

A先生「Bさん、罰を与えてください。」

Bさん「…はい」

Cさん「痛い、痛い!」

問題を出すA先生、しかしCさんは不正解!

Bさん「…ええと…」

Cさん「うわーん!痛い、痛い!」

皆さんはBさんだったらどうしますか?

なんだか怖いですね。本当にこれをやったら、大変なことになりそうです。

今から60年以上前に、アメリカでミルグラム実験(服従実験)というものが行われました。実験をする生徒は、くじで2つに分けられます。それぞれ別々の部屋に入り、インターフォンを通じて話ができるようになっています。片方の部屋には教師がいて、別室の生徒に問題を出します。問題が正解か不正解によって、教師と一緒の部屋にいる生徒は、別室の生徒に遠隔で罰を与えることができます。罰はだんだんと激しいものになり、別室の生徒は苦痛で絶叫します。

この実験では、教師と一緒の部屋の生徒のおよそ3人に2人が、もっとも激しい罰を与えました。

しかし、この実験では、教師と問題を出す生徒、答える生徒が同じ部屋にいるようにすると、もっとも激しい罰を与えたのは半分以下になることも示されました。

この実験は、ふつう、どのくらいの人が命令に服従するか、というストーリーで語られることが多いです。しかし、対面かそうでないかによって、結果が変わることも、大切なことではないでしょうか。

ネットにおける書き込みは、ともすると、ミルグラム実験のような怖さをはらんでいます。そして、この実験では、厳しい罰を与える人は、対面なら半分以下にはなるものの、ゼロにはなりませんでした。確かに、いじめやハラスメント等は、対面であっても起きています。この実験からは、対面でない場合には、こうしたやり取りがさらに増えてしまう、ということが分かると言えるでしょう。

でもせめて、すべての人々が、ネットに書き込みをする前に、相手の人が目の前にいたとして、同じことが言えるかどうか、考えてみるのは、とても重要なことではないでしょうか。

結局は、ネットであるかどうかではなく、自分は、人に対して、どのように接するかということを、どのように考えるか、ということになるのでしょう。すなわち、ネットやSNSでどのような行動をするかは、人と人とのコミュニケーションはどうすべきか、という、とても大きな問題になっていきます。

なおミルグラム実験の別室の生徒は、実はサクラ(ヤラセ)で、実際には電撃の罰はありません。演技でした。それはちょっとほっとすることでもあります。

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